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チョコレート巨大企業にちなんで命名された哺乳類 1.01.06
  ナショナルジオグラフィック
  白亜紀前期のハリモグラの仲間に、キャドバリーチョコレートにちなんだ学名
 がつけられました。

 Kryoryctes cadburyi といいます。そのわけは、ナショナルジオグラフィックに
 よると・・・

 オーストラリア南東部、ヴィクトリア州のDinosaur Coveで1984から1994年にかけ
 て年に3か月トーマス・リッチらにより恐竜化石の発掘が行われました。しかし、
 哺乳類化石は王冠の宝石のように貴重なものでした。なぜなら恐竜化石よりはるか
 に稀だったからです。一方、発掘に従事する学生たちの食事はひどいもので、チョ
 コレートで命をつないでいたようです。
 1987年、発掘に従事していたモナシュ大の学生Helen Wilsonが、リッチに「恐竜の
 顎を見つけたら何をくれる?」と尋ねると、「1kgのチョコをあげる」と答えたそ
 うです。それなら哺乳類の標本は、トム・リッチにとって聖杯ほどの値打ちがある
 ということです。そこでリッチは1立方メートル(約1t)のチョコを約束したのです。

 94年までで発掘は終わり、標本は研究室に送られました。しかしまだ詳細に調べら
 れていない標本がありました。その一つに「上腕骨?カメ?」とラベルされてあり、
 リッチの注意をひきました。既知のどんなカメの上腕骨にも似ていなかったからで
 す。

 結局彼はそれを原始的哺乳類の専門家である二人の同僚の送り、彼らは初期のハリ
 モグラ類であると判定しました。記載はJournal of Mammalian Evolution誌2005年
 12月号に掲載されています。

 喜びの一方、リッチは約束を果たさなければならないのに、うろたえました。1tの
 チョコは1万ドルします。幸い、発掘ボランティアの一人、教師のCindy Hannが、ど
 の生徒の父親がメルボルンのCadbury factoryのトップか教え、同社が賞品の提供を
 申し出たようです。

 1tのチョコは内部が固まらないことがわかったので、その原料のココアバター1t分
 のスラブを見学し、記念写真撮影の後、別室で発掘ボランティア全員は1t分のチョ
 コで埋まった部屋からその運び出し作業に従事したそうです。

 記載論文
 A Tachyglossid-Like Humerus from the Early Cretaceous of South-Eastern Australia
 オーストラリア南東部前期白亜紀産のハリモグラ科様上腕骨
 Peter A. Pridmore, Thomas H. Rich, Pat Vickers-Rich,and Petr P. Gambaryan
 Journal of Mammalian Evolution Vol.12 No.3-4 Dec. 2005 pp.359-378
  DOI: 10.1007/s10914-005-6959-9


 アブストラクトほにゃ訳
 オーストラリア南東部Dinosaur Coveの前期白亜紀(アルビアン)Eumeralla層から、
 部分的な右上腕骨が取り出されている。一般的な形態、サイズ及び単一の上顆孔(
 the entepicondylar)を有することから、この骨は哺乳類あるいは発達した獣弓類
 のものであることが示唆される。この上腕骨はそのサイズ、形態及びねじれにおい
 て、現生及び後期新第三紀のハリモグラ(ハリモグラ科)と同様であるが、尺骨と橈
 骨が単一の球状顆により関節している現生単孔類の状態とは逆に、浅い滑車状の尺
 骨関節であり、それは球状橈骨顆と腹外側で一緒になっている。尺骨関節の形態に
 よりこの骨を、顆-尺骨関節を有する、もっとも発達した獣弓類及び中生代哺乳類の
 いくつかの主要なグループと区別するが、真獣類哺乳類及び幾つかの他の中生代哺
 乳類の系統で見られる状態に沿ったものである。現生単孔類にあるように、上腕骨
 遠位が横に非常に膨大し、上腕骨のひねりは強い。上腕骨遠位の横膨大は、地中性
 ドコドン類Haldanodonの上腕骨や、高度に地中性のモグラ科及びいくつかの明らか
 に地中性のディキノドン獣弓類でははっきりしているが、この化石は現生単孔類と
 最上の総合的な類似性を示し、現生単孔類の独特の肘関節がこの化石の状態に近似
 したものから進化したことはありうる。上腕骨の形態が知られている中生代及び新
 生代哺乳類との比較に基づき、Dinosaur Coveの上腕骨は、一応、単孔類に帰属さ
 せられる。しかしながら、この骨のいくつかの明らかに原始的な特徴から、この動
 物を現生のハリモグラ科及びカモノハシ科に関連する動物から除外する。また、こ
 のことから、もしこれが単孔類であれば、単孔類の基幹群である。この動物の真の
 類縁がどのようなものであれ、その上腕骨形態の全てから、回転-押しだし掘削に
 かなりの能力をもっていたことが指し示される。

 古生物学的記載
 ?単孔類
 科不定
 Kryoryctes cadburyi gen. et sp. nov.

 属名:"Kryo"ギリシャ語で低温。白亜紀当時のオーストラリアDinosaur Coveが高
 緯度にあり、この動物が季節的に非常な寒さに遭遇したことから。"oryktes"ギリ
 シャ語で掘る者。掘削能力に非常に適応した頑丈な上腕骨から。
 種小名:Cadbury Schweppes Pty Ltd.に献名。完模式標本の暗い色及びこの標本を
 発見に至らしめた古生物学的フィールドワークの組織化のサポートを認めて。
 完模式標本(MSCO208094 Museum Victoria Palaeontological Collection)部分的な右上腕骨

 参考:Dinosaur Dreaming